仕事を知る
国民の安全・安心の確保
はじめに
人口減少や大規模な災害発生のリスク、老朽化したインフラの維持管理など、我が国の国土を守り繁栄させるにあたっては、多くの深刻な課題に直面しています。これらの課題に対処するためには、インフラの各分野において、総力をあげて取り組みを行うことが重要です。港湾においても、港湾の安全性の向上、効率的な利用、高度な技術が必要です。
現在、港湾局では、「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」においても「国民の安全・安心」を重点項目に掲げ、港湾分野の各種政策を推進しています。人口減少時代にも力強い経済成長を目指し、新技術の活用に注力していきます。
港湾施設の維持管理
港湾分野では、港湾施設を長く安全に運営していけるよう、施設毎に維持管理・更新計画を作成・活用し、港湾施設の効率的かつ戦略的な修繕・更新を行います。国土交通省では、「港湾の施設の維持管理計画策定ガイドライン」等を策定することにより、港湾の適切な維持管理・更新を推進しています。
主な取り組み
ガイドラインの策定
国土交通省港湾局では、港湾施設や荷役機械等の効率的・戦略的な修繕・更新を支援するため、「港湾の施設の点検診断ガイドライン」や「港湾の施設の維持管理計画策定ガイドライン」、「港湾荷役機械の点検診断ガイドライン」を策定し、港湾管理者への技術支援等の充実を行っています。
特定技術基準対象施設の報告徴収、立入検査等
港湾の施設の維持管理にあたっては、港湾管理者のみならず、民間事業者等のノウハウを活用しつつ、効率的に港湾の施設の維持管理を行う必要があります。民間事業者等が点検等を実施することができる港湾の施設を「特定技術基準対象施設」と呼びます。民間事業者など港湾管理者以外の者が特定技術基準対象施設を管理する場合、その手続きや方法の考え方についてガイドラインに取りまとめました。
講習会・検討会の実施
港湾の施設を効率的に維持管理・更新していくためには、ノウハウや知見を情報共有することが効果的です。そのため、国土交通省港湾局では、現状と課題についての講習会、今後の維持・改良手法について検討する検討会を実施しています。
災害対策
台風、地震などの災害が日本にとって深刻な脅威となる中、物流や産業機能、人口が高密度に集積した港湾には、安全で効果的な災害対策が求められます。
国土交通省 港湾局ではこの問題を重要視し積極的に災害対策に取り組んでいます。
主な取り組み
命のみなとネットワーク
概要
近年、気候変動の影響により、これまでに経験したことのない豪雨による洪水や土砂災害等の気象災害が多く発生しています。陸路が寸断して孤立した被災地において、海上輸送を活用した緊急物資や生活物資、救援部隊や被災者の輸送等の事例も増えつつあります。
こうした状況を踏まえ、“みなと”の機能を最大限活用した、災害対応のための物流・人流ネットワークを「命のみなとネットワーク」と名付け、このネットワークの形成に向けた取組を各地域で進めていくこととしました。
現在、具体的な取組として、災害時に速やかに対応できるように、国土交通省と関係市町村等が合同で、物資又は人員輸送に係る訓練を行っています。
主な機能
港湾において、「①支援物資輸送拠点」「②被災者の救援輸送拠点」「③生活支援拠点」を提供することにより、支援を行っています。
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支援物資輸送拠点 -
被災者の救援輸送拠点 -
生活支援拠点
災害復旧事業
(清水港:令和元年災害)

災害時に破損した防波堤の修繕や、海岸保全施設の機能と環境の回復を図るため、漂着流木及び漂着ゴミ等を緊急的に除去する事業を行っています。これにより、災害からの迅速な復旧に貢献しています。
耐震強化岸壁の整備
耐震強化岸壁とは、大規模地震に備えて耐震性を強化した係留施設(船を接岸させるための施設。岸壁など。)のことです。地震が発生したとき、緊急物資の輸送や、輸出入による経済活動を維持するために活躍します。
耐震強化岸壁の整備により、地震発生時に港湾機能を維持し、海上からの物資輸送や救援部隊の輸送、被災者の救援輸送、基幹的な海上物流ネットワークの確保等の重要な役割を果たすことが可能となります。
相馬港 通常の岸壁
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L1地震※1では利用可能だが、
L2地震※2では利用できない -
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岸壁にひび割れ、段差
※1 75年に1回の地震
※2 300〜500年に1回発生する最大規模の地震
相馬港 耐震強化岸壁
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L2地震※2時でも震災直後から利用可能 -
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岸壁に異常なし
老朽化対策の推進
供用後50年以上になる海岸堤防等が2040年には全体の約8割にまで増加します。港湾施設や海岸保全施設の老朽化が進む中、将来に渡りその機能を発揮出来るよう、国土交通省 港湾局では老朽化対策を推進しています。
老朽化対策の必要性
供用後50年以上経過する公共岸壁の割合(施設数)

老朽化の進行による
港湾施設の破損・事故例
完成後50年以上経過する海岸堤防等の割合(施設延長)

老朽化の進行による
海岸保全施設の破損・損傷例
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剥離・損傷 -
ブロック破損
基幹的広域防災拠点の整備と運用体制の強化
災害発生時に複数の都道府県に被害が及んだ場合、緊急で物資の中継や広域支援がスムーズに行えるよう、基幹的な広域防災拠点を整備します。これにより、災害時の運用体制をより強化し円滑で迅速な支援が確保されます。
港湾の事業継続計画(BCP)の策定
BCPとは、通常の業務が中断した際にも、最低限のサービスレベルを保ち、かつ迅速な復旧を実現するため、事前に代替資源を用意し、災害発生時においても各組織(対港運会社、船社、ターミナルオペレータ、タグパイロット、荷主など)がダメージを最小限に抑えつつ、迅速な復旧を実現するための手順や対応方法を規定したものです。
災害発生時に港湾の機能や民間事業者や関係行政機関などの機能を維持するために、港湾関係者が協働してBCPを策定します。
これからの対策と課題
輸出入貨物量の99.6%を取り扱う港湾は、人口や資産が集中する日本にとって生命線であり、災害時の人命や資産の保護が極めて重要になります。
そのため、港湾・海岸分野においては「①激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」、「②予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」、「③国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」の3つの柱に基づき、令和3年度から7年度までの5年間で重点的かつ集中的に対策を行うこととしました。
激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
津波対策

「粘り強い構造」を導入した防波堤の整備を実施。東日本大震災のように、想定を超える規模の津波に対して、防波堤が変形しつつも倒壊しないことを目指しています。これにより後背地を守ります。
地震対策

海上交通ネットワーク維持のための耐震強化岸壁の整備や臨港道路の耐震化等を行っています。
耐震強化岸壁を整備することにより、緊急物資の輸送等を確実なものとします。
高潮・高波対策

港湾施設の嵩上げ・補強等の浸水対策を実施しています。
これにより、被災後にも迅速な港湾荷役を迅速に再開します。
走錨対策

走錨とは、異常気象時に停泊中の船舶が風に煽られ制御不能となることです。これを防止するため、異常気象時に船舶が避泊する水域を確保するため、防波堤等を整備しています。
埋塞対策

豪雨等による大規模出水時に、運ばれた土砂で航路が埋まることがあります。これに備えた埋塞対策を実施しています。
海岸の整備

激甚化する自然災害や切迫する南海トラフ地震などから背後地域の人命や物流・産業機能を守るため、海岸保全施設のかさ上げや耐震化等を推進しています。
予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策
港湾・海岸における老朽化対策


予防保全型維持管理の実現に向けた港湾施設・海岸保全施設の老朽化対策を推進し、港湾・海岸の安全な利用等を確保します。
国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進
港湾におけるデジタル化に関する対策

i-Construction等の推進や、サイバーポート(港湾インフラ分野)の構築
港湾における災害情報収集等に関する対策

災害関連情報の収集・集積を高度化し、災害発生時の迅速な復旧等の体制を構築
港湾における研究開発に関する対策

国土強靱化に直結する研究開発を行うための体制を構築